難聴亭日乗

つれづれなるままに その日ぐらし

チェン

NHKフランケンシュタインの誘惑」制作班『闇に魅入られた科学者たち』読んだ。

この番組でよく覚えているのは、「握りつぶされたブラックホール」の話。スブラマニアン・チャンドラセカールって名前の響き良すぎて、三日間くらいブツブツつぶやいて記憶した思い出。スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテとか、あの感じ。覚えたくなるよね。小学生は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」覚えがち。

っていうくらいで内容はそんなにっていう不真面目な視聴者だった。でも結構見てる。ロボトミーとか人体蘇生の回も見てる。吉川晃司の語りが不穏でいい雰囲気出してんだわこれが。

 

今回の書籍化にあたっては、人体実験に関係するテーマに絞り五人の科学者が紹介されている。

「切り裂きハンター 死のコレクション(外科医・解剖学者 ジョン・ハンター)」

「“いのち”の優劣 ナチス 知られざる科学者(人類遺伝学者 オトマール・フォン・フェアシュアー)」

「脳を切る 悪魔の手術ロボトミー精神科医 ウォルター・フリーマン)」

「汚れた金メダル 国家ドーピング計画(医師 マンフレッド・ヒョップナー)」

「人が悪魔に変わる時 史上最悪の心理学実験(社会心理学者 フィリップ・ジンバルドー)」

 

ジョン・ハンター、大男の遺体を意地でも手に入れようとする話で有名だから、めっちゃ死体を解剖しまくった医者っていうのは知ってたんだけど、農家の息子でしかも学校で医学を修めたりとかしてなかったのね。瀉血が当たり前の時代だったから、開業医である兄の手伝いとかから外科医になれた。で、座学ではなくてバリバリに解剖しまくって人体を理解していったと。すごいな。

ジキル博士とハイド氏』はわかるけど、『ドリトル先生』のモデルにもなってたっていうの知らなかった。知らなかった方がよかったやつだ。怖〜〜。

 

優生学ナチスの虐殺行為と結びついて悪名高いイメージが強い。でも「民族全体を救う」っていう善意から走り出してるんだよな。確実にその善意は地獄へと繋がっているんだけど。そのときの社会的な流行とか、政治的な力とか、そういうのを吸収して、善意は暴走していきがち。

「いやあ昔は恐ろしい考え方が暴走しちゃってたんだな」で終わる話ではない。出生前診断、ゲノム編集。「望ましくない」人間を作らない、そんな理想は現代でも燃えていて、近い将来には倫理観を焼き尽くしてまた暴走を始めるかもしれない。

 

ロボトミーの回は見た。フリーマンという名前も覚えてる。正直やっぱりマスコミで広まったものって信用できないよね。ロボトミーの事例もこの考えを強めた。「なんかすごいらしいし話題になってるからあの治療受けさせてみよう!」で脳を切らない方がいい。当時の精神病に対する風当たりは現在とは違うし、藁にもすがる思いだったのかもしれないけどさ。

しかしこの「悪魔の手術」のおかげ(?)で、どこを切り取るとどうなるって感じで記憶のメカニズムが解明されて研究が進んだのは、なんというか皮肉っちゃ皮肉だけど、転んでもただでは起きない科学の意地みたいなのを感じてよかった。

 

ドーピングの回も確か見た。この辺になってくると、親世代は普通に旧東ドイツメダルラッシュを見て、発覚の報道もリアルに見てるんだよな。すごい。私からするとベルリンの壁崩壊もめちゃんこ歴史的事象なんだよね。なので不思議な感覚。歴史の事件だけど、そこまで歴史じゃない。

 

最後の章をスタンフォード監獄実験の話でまとめるの巧い。「状況」に飲み込まれて、人は悪魔にもなる。研究者として観察していたジンバルドーすらも、自信が作り出した監獄に捕らわれて、いつのまにか「監獄長」になってしまっていた。恐ろしい話だけど、抗えないものなのだろう。他の「闇に魅入られた科学者」たちも。

余談。スタンフォード監獄実験って有名だけど、ジンバルドーって名前は聴き馴染みなかった。なんなら『服従の心理』のスタンレー・ミルグラムがやったんだっけ?とか思ってた。雑談で知ったかぶりしてやらかす前にこの本読めて良かった!!

 

病院の待ち時間に読んだので、なんかマッチしてて良かった。青森で太宰治津軽』読む的な。まあ読んだことないし青森も行ったことないけど!