気分をどんよりさせる湿度も少しはマシになってきて、いよいよ夏だなというこの頃。
セミも鳴き始めた。うるさいし、飛んでくると怖いので好きではないのだけど、フランスではセミ cigale は幸運の象徴らしい。主に南仏でしか見られないそうで、おみやげ品も多数あるとか。
先日、元首相が銃撃され死亡するという衝撃的な事件があった。各人が様々な事件を連想しただろうが、私は真っ先に桜田門外の変が思い浮かんだ。長く平和の続いた江戸時代、まさか大老が襲撃されるとは誰も思っていなかった。
井伊直弼が斃れ、幕府の権威は失墜する。襲撃は、暗殺は、もはや夢物語ではない。叛乱分子は跳梁跋扈し、権力側も血眼で制圧せんとする。混乱の時代の訪れ。
その門が再び開かれたのだろうか。そんな暗い気持ちで、報道番組を見つめていた。コメンテーターが追求する動機や武器の話はどうだっていい。「不可能に思われたことが可能になった」という天地逆転の事実にただ慄えていた。
暴力により何かが変わるって、これほど不気味で心地悪いんだな。こんなことが私の生きている時代の日本で起こってしまった。とてもかなしい。
セミたちは短い夏を懸命に鳴いている。