難聴亭日乗

つれづれなるままに その日ぐらし

流刑地より

田舎者と貧乏人を初めて見た話という匿名記事を読んだ。田舎生まれ田舎育ち、トリーバーチは何者だ?な私にとって、興味深い記事だった。と同時に、数年前に出会ったある人のことを思い出した。

 

私のよく行く立ち飲み屋には、転勤でやってくる県外の人が多い。彼女もその一人で、上司に連れられてやってきた。奢ってもらえるから来た、という感じだが、本当は立ち飲みなんか来たくなかった、とでも言いたげな不満感に満ちていた。

その上司の方と私は仲良しだったので、彼が連れてきた後輩ということで、とりあえず話しかけてみた。機嫌悪そう、というか話しかけんなオーラえげつなかったからアレだったんだけどね、とりあえず。

 

色々聞いてみると、彼女は東京生まれ東京育ち、東京の有名私大を出て、某銀行の銀行に入行した。そして、初めて親元を離れ地方に出た。それがいきなり四国アイランドへの島流しだったわけである。

慣れない土地で不安だろうし、顔見知りの一人でも出来たら、と思って上司はこの立ち飲み屋に連れてきたらしい。だが、彼女にしたら余計なお世話のようだった。彼女は田舎の人間と関わろうとしなかった。時間の無駄だからである。仲良くなっても仕方がない、というか、仲良くなれるわけがない。生きる世界が違う。

 

彼女は上司に連れられて何度か来た。しかし誰とも仲良くならなかった。彼女は口を開けば「はやく東京に帰りたい」「毎日つまらない」と言っていた。わが県のことを「こんなところ」と呼んでいた。そんな話を毎度聞くわけだから、店主さんは、彼女のことを良く思っていなかった。当然っちゃ当然である。

彼女は来なくなった。ちょっとしたトラブルがあり、常連さんに酷いことを言ったのである。普段から見下していたのだとは思うのだが、激情して本心が全部出てしまったのだろう。

 

もう名前も顔も忘れてしまった。

まあでもそういう人がいたなあというのは、今回みたいな記事を読んだときにアレコレ考えるいい材料になる。出会って損ではなかったと思う。彼女にとっても、「こんなところ」で過ごした経験が、なにかに活きるといいのだけど。本当に時間の無駄でしかない期間だったとしたらさみしいね。