難聴亭日乗

つれづれなるままに その日ぐらし

違いのわかる

時間つぶしに入ってみた店が面白かった。生ビールの注ぎ分けが楽しめる店。前々から「あるなあ〜〜」とは思っていたけど、ちょっと入りにくい雰囲気だった。こういう機会があるとちょっとした冒険ができるので良い。

1杯目に最適というシャープ注ぎ、これぞビールって感じでスイスイ飲めちゃう。注ぎにこだわりありという前提知識もあってか、格別に思える。お店の近くに温泉があるので、湯上がりにここでシャープ注ぎをグイッといくの最高かもしれない。

続いて違いがわかりやすそうなマイルド注ぎ。これが全然違う。あんまりわからなかったらどうしようとか思って内心ドキドキしていたのだけど、いらぬ心配だった。心地よい苦味。じんわり長い余韻。同じビールでも注ぎ方でこれだけ変わるんだな。他にも数種試したけど、味音痴の私でもハッキリわかるくらいに違う。新しい世界を見た。

 

時吉秀弥『英語脳スイッチ!』読んだ。

認知言語学の知見から文法を学べる本。

日本語脳と英語脳ではものの見方がかなり違う。英語は他動詞優位の言語なので、「原因」を主語にする文が多くなる。

 例えば日本語で「台風のせいで電車が遅れた」と言えば、主語、つまり主役の情報は「電車」です。電車が遅れた原因である「台風のせいで」は文法的には修飾語である副詞です。

 しかし、英語では(つまり「英語脳」の発想では)、

 The typhoon delayed trains for an hour.

 (その台風が電車を1時間遅らせた。)

という言い方が普通で、原因である the typhoon が主語、つまり情報の主役になります。

 

ひとりでにそうなった(「カップが割れた」など)という自動詞の文にはなりにくく、原因(「誰々がカップを割った」など)をハッキリさせる。と言われるとかなり責任追及型の言語に思えて怖いが、意外とこの「原因」のおかげで気を遣った丁寧な言い方になったりもする。

例えば Why do you think that? と What makes you think that? では、どちらが丁寧、あるいは喧嘩腰に聞こえないか。これ、前者は「なんであなたはそう思うの?」で、後者は「なにがあなたにそう思わせるの?」という感じになる。

why で「なんで?」と訊いてしまうと、「意思・意図」まで踏み込んでしまい少々立ち入り過ぎになってしまう。その点、What makes you think that? は、何かしらの原因があなたにそう思わせた、それは何なのですか?を尋ねる表現なので、かなり気を遣っている。

 

「日本語は敬語表現が多彩で、ズケズケと物を言う英語よりも丁寧で繊細な言語」みたいな言説を見聞きすることがある。しかし、英語は英語で「ここまで踏み込まないほうがいいな…」という微妙な距離のとりかたで気を遣いまくっている。丁寧で繊細な言語だなあ〜〜と思った。

しかも更に「命令や依頼に please をつけると丁寧になるか上から目線になるか」というのが、イギリス人とアメリカ人とで違ったりするらしい。頼み事をするのだから「お手数ですが・悪いけど」とつけないと気持ち悪いよな、と考える英国人と、われわれ身分の上下なく平等なのだから「悪いけどやってね」という断る選択肢をなくすような露骨な表現を避けるアメリカ人、という感覚の違い。発音や綴りが違うのは知っていたけど、そういう感覚の違いって考えたことなかったな。

 

英語話者の「世界の捉え方」や「文化的背景」を理解したとき、英文法が腑に落ちる。楽しい英語学習本だった。

同著者の『英文法の鬼100則』も気になる。「鬼」ってちょっと怖いけど。