難聴亭日乗

つれづれなるままに その日ぐらし

吉澤嘉代子『女優姉妹』雑感

 

11月7日発売、吉澤嘉代子4枚目のフルアルバム『女優姉妹』

いち早くCDを買いに走り、ブックレット片手に過ごす時間。失われつつあるこんな幸せを、まだ味わわせてくれるアーティストが居るのは、たいへん嬉しいことである。

 

今回の『女優姉妹』には、シングル曲『月曜日戦争』『残ってる』『ミューズ』が収録されている。ドラマの主題歌や、じわじわと世間に浸透し彼女の名を一躍広めた名曲、これらが組み込まれ、これまでの内的な作品群とは一線を劃す。

 

とはいえ、作品全体の雰囲気を形作るのは、導入の『鏡』という曲だ。このアルバムには「鏡」という言葉が散りばめられている。徹底的に自己を見つめることによって、奥底にある人間普遍を見る。私は貴方ではなく、貴方は私ではない。しかしその実、私は貴方であり、貴方は私なのだ。

 

シングル曲が妙に浮くことなく、それぞれがあるべき場所に収まっている。それを纏めているのは『女優』だろう。

切ない後味消えぬうち、すぐさま『ミューズ』に繋がる。言葉が優しく反響する。

「一瞬で終わってしまう 火花の中に飛び落ちて 一生を捧げるように 永く静かな恋をした

透明であろうとするほどに すべてを吸ってしまう 貴方だから 物語になるよ」

 

「戦っている貴方はうつくしい」

 

 

そんな山場での感涙拭いきる間もなく『洋梨』が転がってくる流れ、やはり吉澤嘉代子は一筋縄には行かない。

『残ってる』では終わらず、女優姉妹それぞれの名演を『最終回』でひっくり返し幕を閉じるのも、この監督らしい諧謔だと言えよう。

新章へと踏み出す彼女の、確かな一歩目を示すアルバムである。


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