難聴亭日乗

つれづれなるままに その日ぐらし

マンデラ

新年早々、物騒な話が続いている。ベイルートでの爆撃暗殺事件、スレイマン追悼式での爆発事件。イスラエルハマスの戦争は周辺国・組織を巻き込んでまだまだ激化しそうだ。

こうした争いが起こるたびパレスチナや中東の問題について読んでいるはずなのに、すぐに忘れてしまう。遠い地域での縁のない出来事と心のどこかで思っているからだろうか。同じ地球の、同じ人間の話なのに。

 

山井教雄『まんが パレスチナ問題』読んだ。

復習のつもりで本書を手に取った。パレスチナ人のアリとユダヤ人のニッシム、それとなかなかキレ味鋭いコメントをところどころで挟むノラネコが、旧約聖書からアラファトの死まで易しく語ってくれる。

 

人種・民族について考えさせられた。

パレスチナで生まれたイエス・キリストパレスチナ人。パレスチナで生まれ育った人、住んでいる人は、イスラム教徒でもキリスト教徒でもユダヤ教徒でも皆「パレスチナ人」だ。しかし母親のマリアがユダヤ人なのでユダヤ人でもある。「ユダヤ人」というのは宗教から見た見方だ。

パレスチナ人でありユダヤ人でもある」という人たちが居ることすら、あまり馴染みがないのではないだろうか。それくらい私たちは人種・民族問題について疎い。

 

ドレフュス事件*1もあまり人口に膾炙していないイメージがある。フランス史の本には必ずといっていいほど取り上げられる重大事件であり、エミール・ゾラが「糾弾」したことで有名だ。

柴田三千雄フランス史10講』でもこの事件は「第三共和制、さらには近代フランスの社会と政治にとって、大きな転換点となった」と紹介されている。国家と宗教を完全に分離する「政教分離法」制定につながっていく転換点である。

 

そんな重大事件なのだけど、ユダヤ人にとっての「ドレフュス事件」を考えたことがなかった。革命により信仰の自由や平等の市民権が認められ「ユダヤ系フランス国民」として落ち着いたはずなのに、そんなものは幻想だった。軍人として命がけで国を守っても、差別を受ける。平穏に暮らすことすらままならない。

どこへ行こうとどんな時代になろうと、少数民族は差別され、迫害される。そんな現実を突きつけられたユダヤ人は、自分たちの国を、ユダヤの国を造るという理想へと進んでいく。ユダヤ人にとってもドレフュス事件は大きな転換点だったんだ。

 

まんがだと侮るなかれ、大いに気づきがあった。続編も出ていて、ハマスらの台頭に関してはそちらが詳しいみたいなので探してみる。

*1:1894年、フランス軍ユダヤ系大尉ドレフュスが軍の反ユダヤ主義者たちのでっちあげによりスパイ容疑で有罪となった事件。2019年、ロマン・ポランスキー監督により映画化されている。