難聴亭日乗

つれづれなるままに その日ぐらし

勝利も敗北もないまま

ここ数日、夜が涼しくてよい。昔は一番暑い時期でもこれくらいの気温だった気がする。と、老害みたいなことを思った。ただ消え去るのみ。

 

黒田龍之助『ロシア語だけの青春』の文庫版読んだ。

読書記録を掘ってみると、単行本は2019年に読んだっぽい。印象に残った文をメモってたんだけど、「語彙と文法の限界は自分の限界。これを自覚するところから、外国語学習が始まるのではないか」というのをメモしていた。これ、今回読んだときにも印象に残って付箋つけた一文だ。大事だよな「語彙と文法」。千野栄一『外国語上達法』にも「単語のない言語はないし、その単語を組み合わせて文を作る規則を持たない言語はない。すなわち、何語を学ぶにしても、この二つを避けて通るわけにはいかない」とある。徹底的にこの二つを、繰り返し繰り返しやり続けて限界を伸ばしていく。

 

黒田先生の文章めちゃくちゃ好きで、読むたびに「すごいなあ、文章うまいな」と感じ入ってしまう。ミール・ロシア語研究所が閉校すると聞いて、久々に平和ビルへ訪れた著者。奥の教室から聞こえてくる東多喜子先生の声。あとに続く生徒の発音はウダレーニエ(アクセント)が弱い。多喜子先生が訂正を求める。高校生だった著者が初めて足を踏み入れたときと、何も変わらない。その情景描写に思わずウルッとくる。ミールに行ったこともなければ、多喜子先生も知らないのに、なんだか私も懐かしい。

そうそう、この文庫版、装画がめちゃくちゃいい。行ったことない雑居ビルなのに「懐かしいな〜〜」ってなる。教科書片手に少し不安そうな表情で階段を上る青年。いいねえ。情緒がある。

 

語学、に限らず楽器とかもそうだと思うんだけど、毎日コツコツって大事。大事だし、これはけっこう拠り所でもある。ぶち抜けた才能とかはないけど、毎日やってるからそれなりには形になってんじゃないッスかって感じで。でもこれはかなり脆い拠り所ではある。毎日やってりゃ誰でもこれくらいにはなれますよってことは忘れちゃいけない。気を抜いてたらバンバン追い抜かれる。やり続けるしかねえです。